大手広告マンの教える、広告のノウハウを使って、人生を豊かにするBlog

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30分で「アンバサダー」になってしまった、ある「カスタマーエクスペリエンス」の話。

 
これは、僕が
アンバサダーになってしまった、
あるカスタマーエクスペリエンスの話である。
 
 
桜が咲き始めた頃の、ある日曜日の昼さがり。
 
 
妻と僕は、昼食を食べるお店を考えていた。
 
昨晩、飲んだり肉を食ったりしたこともあって、
あっさりしたものが食べたかった。
 
「それなら、回転寿司にしよう」
 
 
家を出て、歩く。
少し先にある、広い公園を抜けると、
大きな通りに差し掛かる。
 
 
その大きな通りには、2軒の回転寿司屋さんがある。
 
50mと離れていない位置に、
同じくらいの規模のお店が並んでいるのだ。
 
 
 
 
 
この2軒のお店。
A店と、B店としよう。
 
 
A店は、一皿100~200円のものがメイン。
安さが売りの、全国で知名度の高い回転寿司だ。
 
B店は、一皿200~400円。
新鮮なネタが売り、知名度はそこそこの回転寿司だ。
 
 
 
僕は、A店と、B店、両方で食べたことがある。
 
 
正直、A店の2倍、B店の寿司が旨いかというと、そんなことはなかった。
 
 
 
「A店にいこう」
 
と、僕は一度、言った。
 
 
けど
 
「・・・いや、やっぱB店にするか」
 
と、気まぐれか何かで、たまたまB店の方を選んだ。
 
 
 
お店の扉を開け、カウンターの席に腰かける。
 
メニューを見ていると、
妻が”あること”に気付いた。
 
妻「なにこの、『劇団セット』って」
僕「ゲキダン?」
妻「あと、店名の上に『おいしい舞台』って書いてあるよ。変な名前」
 
 
劇団?
舞台?
 
お寿司屋さんには、似合わない言葉ばかりだ。
 
 
 
 
さらに不思議なことが起こった。
 
 
職人「団長!ハマチ入りまーす!!」
店員「味噌汁お持ちしました、団長ー!!」
 
 
寿司職人や店員さんが、「店長」を「団長」と読んでいるのだ。
 
 
しかも、遠くまで通るような、とてもいい声なのだ。
 
 
 
 
―――そうか。
 
 
これは、劇団。
お店は、舞台。
店長は、団長。
職人は、団員。
 
そういった、テーマ設定なんだと気付いた。
 
 
 
 
 
 
 
 
正直僕は、
 
失望した。
 
 
 
A店に、コスパで劣る、このB店が
小手先の賑やかしで、
客を寄せようとしている姿に、失望したのだ。
 
 
低迷したブランドや企業は、
起爆剤として、そういった類の
プロモーションをすることがある。
 
 
ただ、事業が提供している価値の、
言い換えると寿司屋さんの価値と
繋がらないような演出は、ブランドの価値を損ねる。
 
 
 
 
―――もうこのお店には来ないだろう。
 
最後のこのお店での食事を、済ませようとしていた。
 
 
 
 
 
 
しかし、
 
 
 
 
この舞台は、
 
ここでは終わらなかった。
 
 
 
 
 
 
職人「今日、獲れたての、アオダイでーす!」
 
職人が、捌く前のアオダイを1匹抱え、
カウンターにいる人たちに見せて周る。
 
 
直後、
 
職人「捌きたてのアオダイのお寿司、いかがでしょうかーー!」
 
いくつかアオダイのお寿司の皿が並べられたお盆を、
職人さんが持って、
カウンターの御客の前に出し、歩いて回る。
  
 
捌きたての、アオダイの寿司が
僕の目の前に現れる。
 
 
思わず手が伸びる。
 
 
―――うまい。
 
 
 
 
舞台はまだまだ続く。
 
 
職人A「熱い男、団長の焼いた、熱々の卵焼き、あがりましたー!」 
職人B「これを今から、切り分けて、お持ちしまーす!」
職人C「だんちょーーーう!なんでそんなに熱い男なんですかーーー!」
 
 
職人、いや、劇団員の声が飛び交う。
 
 
 
―――団長は、まさかのスルー。
 
 
店長の対応とは裏腹に、
今度はできたての温かい卵焼きが、目の前に現れる。
 
お腹いっぱいになりそうだので手には取らなかった。
 
だが、目と心を奪われた。
 
 
 
 
突然、
 
店員A「バァーーーーーーーーーニラアイス、一ッ丁!!」
 
 
小さな子供が、バニラアイスを注文したようだ。
 
奇声と見紛えるような、クレイジーな声が鳴り響いた。
 
ここまで熱い「バニラアイス」は、人生初だ。
 
 
その姿が、僕のツボを掴んで離さない
笑いを愛し、笑いに愛された男、
サンシャイン池崎』の姿と重なり、
 
 
僕「・・・・ッハハ!」
 
 
思わず、声に出してしまった。
 
 
 
 
 
 
 
 
―――おかしい。
 
 
ここのお店の「小手先の技」は、妙に「熟練」されているのだ。
 
 
 
 
 
 
 
その時僕は、
 
 
僕の大いなる過ちに気が付いた。
 
 
 
 
 
 
―――そうか、これがB店『銚子丸』の価値だったんだ。
 
 
 
A店は、安くて、そこそこおいしい寿司が食べられる。
メニューもかなりの数があり、サイドメニューも豊富だ。
 
店員さんは、普通の大学生アルバイト、といった感じ。
注文もパネルで行い、余分なモノやサービスがない。
お寿司も、機械が作っているのを、見たことがある。
 
徹底したコストカットが、このコスパを実現させているのだろう。
 
 
 
対して、B店『銚子丸』は、
A店に比べると高いし、美味しいが、
正直値段程の味の違いは分からない。
 
 
しかし、
 
毎日、その日にいい魚を仕入れているから、メニューも違う。
 
そのタイミングでしか食べれない「捌きたて」「できたて」がある。
 
人が握るからこそある、職人さんとの会話や、賑やかさある。
 
 
そこにいくと、どんな人が、どんなことをするかわからない、
何かと出会うワクワク感や、楽しさ、人の温かさがあるのだ。
 
 
 
 
―――それは確かに、寿司屋ではなく『舞台』であった。
 
 
 
A店に勝るポジショニングを明確にし、
「さぁ、おいしい舞台へ」をコンセプトに、
このお店らしい良さ(=ブランド)を、顧客が体験するよう、
コミュニケーションがデザインされ、徹底されていたのだ。
 
 
 
 
―――僕は『銚子丸』のことが、もっと知りたくなった。
 
 
『銚子丸』は、関東を中心に展開する、回転寿司チェーンである。
 
40周年を機に、「さぁ、おいしい舞台へ」をスローガンに掲げている。
 
最初に目に入った「劇団セット」は、他の店舗にもあるらしく、
あの店舗が思いつきでやっていることではないと分かった。
 
団員達の言動から、おチャラけた印象のあるお店かと思いきや
 
「酢」や「米」を始め、
多くのこだわりのあることが分かった。
 
 
そのこだわりは、
僕にその寿司を美味しそうだと思わせるとともに、
企業姿勢への共感を生みだした。
 
 
要は、好意的な印象を、僕に抱かせた。
 
 
 
 
お寿司の美味しさと値段。
コスパで比較するなら、僕はA店に行くだろう。
 
 
しかし、
 
「今日のおすすめはなんだろう」という期待感に、
「あの面白い団員さんいるかな」という楽しみに、
 
銚子丸に行き、お寿司を食べる時間、その体験に、
 
 
お金を払う価値が、十分にあると、感じた。
 
 
 
 
―――そして、思わずこの『発見』を、誰かに伝えたくなった。
 
 
忘れないようにと、メモに加えた。
 
そしてその2日後、飛行機での移動中に、キーボードをたたいた。
 
その夜、その文字を、ブログに上げるべく、推敲した。
 
ついには、そのブログをアップした。
 
明日の朝には、誰かがそれを見てれるだろう。
 
 
こうして僕は、
 
そうなるつもりなど微塵もなかった
 
銚子丸アンバサダーに
 
なってしまった。